ご相談を頂きましたお客様は、入院中に要介護認定を受け、そして退院後は一人暮らしという状況でした。
まずは病院関係者、ケアマネージャー、その他関係者の方々を交えて、ご自宅で出来ること、できないこと、障害となることを一緒に確認しました。
前提として、今まで過ごしていた2階の主居室を1階玄関脇にある洋室に移動し生活の基幹としました。
【出来ないこと】
①高低差20㎝以上の上り下りは不可
②補助器具無しの長時間の直立や移動は不可
水廻りを集約した工事の増築部図面
【ポイントとなること】
トイレと浴室の位置が主居室からは遠く、5分以上かかってしまいます。
そのため、プランについては少しでも身体への負荷を減らすために、主居室の横が土間の納戸となっていたため、主居室の壁を抜いて、浴室、トイレを隣接する形で設置することにしました。
キッチンへは扉でつなぐことで回遊性を持たせ、モビリティを高めることとしました。
床材については将来的に車椅子になっても使用が出来るように、水廻りで使用可能な車椅子対応のものとしています。
玄関の段差も大きく昇降が出来なかったので、ステップを一段設置し、昇降が可能な高さと補助器具が扱いやすい幅としました。急勾配のスロープはちょっとした段差よりも危険なので、緩やかなスロープが難しいところは、あえてステップにし、すべてのステップの高さをそろえて、慣れた高さでの上下移動を基本としました。
増築をした土間はこんな感じのところでした。ここに、2坪ちょっとの空間を作りました。
土間のため、居室の天井よりも50cmほど天井が下がっていたので、上階の床を一部剥がして、梁を撤去し、柱で補強をしました。
リスクマネジメントをするために在来浴室を改修するのではなく、主居室に隣接する土間部に押入れシャワーユニットを設置することにしました。
押入れシャワーユニットの選択は、性能より使い勝手を優先して決めました。
【選択ポイント】
①シャワーユニットの出入り口扉は折戸が基本ですが、この押入れシャワーユニットは、出入り口は間口の広い3枚横引き戸が可能なもので、ユニットの性能よりも使い勝手を優先したものとしています。
② 座ったとき、転んだときなどを想定して、手摺りを追加設置しました。
③素早い動作が難しいため、洗面所用暖房機を設置して、温度によるストレス軽減しました。
【要望】
①洗面台については、立ったまま使用することが難しいので、座って使用したい。そのため、足元は開いたものがいい。
⇒パブリックの洗面台とし、鏡を別途手配をすることにしました。
その際、使い勝手の良いように水栓が固定式だったものをハンドシャワーに組み合わせを変え、ホースが伸びるようにしました。
洗面台の天端高さもお施主様が使いやすい位置に変更をして取り付けています。
②いざという時のために手摺りが欲しい。
⇒手摺りをDAIKENのビオタスクで取り付けました。
プランとしては脱衣室兼、洗面所と言った形にして、トイレ、シャワールーム、主居室へのアクセスの結節点としています。
手摺りの位置などはお施主様の生活をイメージしてこの時はこう使ってとシュミレーションをして考えましたが、実際はお施主様によって、住み熟していく工夫がされるなと実感しました。
特にシャワーユニットへの入り方についてはイメージと反対側だったことに驚きました。
①トイレまでの距離が遠く、移動が大変であること。
⇒主居室に隣接する形で新たに設置。
②トイレの背面にあるタンクに手洗いが付いており、使いづらく、近くに他の水栓がない。
⇒背面手洗いは使いにくいので、別に手洗いを設けました。
③既設のトイレはトイレ室内が狭く、自分が入るだけでやっと。生理用品が置けない。
⇒補助器具を使用しながら座れるように余裕のあるスペースとしました。
④座ると自身で立ち上がることができないため、捕まる手摺りが必要。
⇒左右と正面に手摺りを設置して身体を起こせるようにしました。
この手摺りは衛星面も踏まえ、DAIKENのビオタスクとしました。
そして、何か汚れ物が出来ても洗えるように、深型シンクを取り付けました。
移動する場所には手摺りを設置して、いざという時に起き上がるなどができるよう対応としましたが、病院に比べご自宅での一人暮らしの生活には身体的にも精神的にも負荷が多く、大変なご様子でした。
しかし、それでも我慢をしたり制約のある病院での入院生活よりも、自由気ままに生活の出来るご自宅がいいとのことでした。
私たちがお施主様の生活の質に、どれだけ役立ち、貢献できるのか、QOLについて改めて考える工事でした。